やる気を奪う親にならないために 心理学者に聞く「子どもの自立のために親ができること」
取材
2017年02月9日
前回の記事(ダラダラしている子どもにイライラ! 心理学士に「子どもがやる気を出すコツ」を聞いてみた)では、子どものやる気を引き出すために、親ができることや気をつけた方がいいポイントを、心理学者の鶴田みさ先生に伺いました。
しかし、子どものやる気を引き出す以前に、実は親が子どものやる気を奪ってしまっている場合もあるといいます。それはいったいどういうことなのでしょうか。
親の「普通」を求めると子どものやる気が奪われる?
鶴田さん 「親は子どもが心配だから、子どもの将来を考えれば、良い学校や良い大学に行って欲しい、安定した仕事について欲しいと考えがちです。
更に親自身が社会的に成功した仕事などに就いていた場合は、自分の子どもにもこれくらいできていて欲しいという思いから、『医者になれ』『公務員になれ』といった要求をしてしまうことも。
親としては無理難題を言っているつもりもないし、良かれと思って言っている場合がほとんどですが、子どもからしたら大きなプレッシャーとなることもあります」
── 親の理想がプレッシャーになるんですね。
鶴田さん 「例えば子どもが不登校になったという親も、自分の子どもは普通に学校に行って友達と遊んで進学して、という姿を想像していたと思います。だから、不登校になったことにショックを受けることは当然でしょう。でもそこで、とにかく学校に戻ることを要求しても、子どもはプレッシャーを感じて更に苦しくなり、やる気も失ってしまう。
子どもだって自分が『普通』じゃなくなったことにショックを受けていることも多いですから」
── 自分で自分を責めている時に、人からも言われるとしんどいです。
鶴田さん 「ただ、不登校になると、子どもが1日中家にいるわけだから、親もすごく気になると思います。まだ寝ているとか、勉強していないとか、ゲームばっかりしているとか。
でも、一挙手一投足を見られていると、子どもも動きにくくなってしまう。何かやる気を出せば、親がまた期待してくると思うと、それがプレッシャーになるので動き出せないという場合もあります」
子育ての最終目的地はどこだ?
鶴田さん 「子育ての最終目的地ってどこだろう? と考えると、学歴や仕事の内容ではなく、子どもが自立することではないでしょうか。
ただ、親と子どもが生きる時代には、30年以上の差があるのだから、親の良いと思う人生を子どもに押し付けても、それが本当に子どもの時代で仕事になるかは分からないですよね。
社会は今、すごい勢いで変化していて、ネットで実名を使うこと、スマホが出てきたことなど、10年前には想像もできなかったようなことが今は『普通』になっています。そう考えると、30年後には家でゲームばっかりしている人の方が、仕事を得られるようになる可能性もあるんじゃないでしょうか」
── たしかに、AI(人口知能)の出現によって活性化する業界として、エンターテイメント業界が挙げられることも多いですから、ゲームの仕事も今より幅広くなるかもしれません。
鶴田さん 「ゲームに限ったことじゃなくても、例えば料理が好きな子がいたら、それを極めれば仕事になりますよね。親が『すべき』と思うこと以外にも、子どもの興味が向くことを『くだらない』と思わずに伸ばしてあげることも必要かもしれません。料理が趣味で終わっても、趣味だって人生には大切なものですから」
自分のために行動できる親が自立できる子どもを育てる
鶴田さん 「子育てって、反応もすぐに得られやすいし、子どもが自分を見てくれるから親としてはとても嬉しいんですよね。でも、それを続けていると親が子どもに依存してしまうこともあります。どこかで、それを断ち切らないといけません」
── 断ち切るためには、どんなことをしたらいいのでしょうか?
鶴田さん 「子どもが思春期を迎えたら、親は子どものプライバシーを尊重することです。例えば、日記やスマホを見たり、子どもが嫌がっているのに部屋を勝手に掃除したりするのは止めた方がいいですね。思春期は自立のためにとても重要な過程です。未熟な部分があっても、思春期になったら『親と子』というよりも、お互いが1人の人間として尊重し合う関係を意識した方がうまくいくと思います。
そのためにも、親自身が子どもに意識が向きすぎないように、視野を広げるのが良いのではないでしょうか。自分の目標や気晴らし、趣味や仕事を見つけ、そちらにエネルギーを注ぐも良し。
本・テレビ・ネットなどから情報収集をしたり、カウンセリングを受けたりなど、何かに祈ったり思い悩んだりするだけではなく、実際に新しい選択肢に触れて、自分の目で確かめてみるといいと思います」
── 親自身が、時間やパワーを自分のために使えるようになることが大切なんですね。
鶴田さん 「ただ、1つ注意して頂きたいのは、今までお話ししてきたことは、どちらかというと過保護というか、小さい時から子どもにパワーを注いできた親御さんへのお話が主でした。
お仕事や家庭の事情で、子どもにかまってあげる時間が少なかったと思われるご家庭では、子どもがそもそも目標の立て方を知らなかったり、親に自分を見て欲しいと思っていたりするので、見守るだけというよりも一緒に物事を進めてあげるとよいと思います」
── これまでの親子の関係や、子どもの状態と向き合っていくことで、はじめて取るべき方法が見えてくるのですね。
【まとめ】
親が子どもを心配したり、人生の先輩として将来のことをアドバイスしたりするのは当然のことでしょう。ですが、それが過剰になってしまうことで、子ども自身がプレッシャーを感じて動けなくなってしまっては、最終的な自立を難しくしてしまう、ということでした。中でも、子どもが生きる時代と親が生きる時代は違う、というお話しは、目からウロコだったのではないでしょうか。
不登校かそうでないかに関わらず、子どもがこれからの未来を生きていける力を育んでいくことが、子どものやる気にもつながってくるのかもしれません。
(文・不登校サポートナビ編集部)
取材協力
鶴田みさ
一橋大学法学部卒業後、メーカーにて勤務。その後、機会を得て渡米し、ニューヨーク大学で教育心理学修士、ニュースクール大学で博士号を修得(認知・社会・発達心理学)。現在はカウンセリングルームでカウンセラーをするほか、心理サービスを提供する心理サービスを提供する個人事業・オープンマインドを運営。ダンス・ヨガの経験を活かし、症状軽減だけではなく、個人が成長しクリエイティブになれるサービスを提供する。
【リンク】
・カウンセリングルームの「ナチュラルリソース」
・オープンマインドのブログ
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