不登校やいじめの体験者にしか出来ないことがあります
社会人
辛い経験をした人のことを、”サバイバー”と呼ぶことがあります。
これは『死なずに生き残った者(過去に虐待やいじめを経験し、一度は死ぬことさえ考えたけれども、死なずに生き残った者)』という意味です。
具体的には、かつての不登校体験者・非行体験者・ひきこもりから脱出した人、また、そんな辛い体験をした子を持つ親たちもサバイバーだと言えます。
このページでは、そんなサバイバーたちにしか果たすことのできない使命(心理学用語で“サバイバーズミッション”と言う)について考えてみたいと思います。
谷川俊太郎作『あな』から気づく支援のあり方
詩人・谷川俊太郎さん作の絵本の中に『あな』(福音館書店)というお話があります。
にちようびの あさ、なにもすることがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた
そんな書き出しで物語は始まります。
ひろしが穴を掘っていると、やがてお母さんがやって来て声をかけていきました。そして、妹のゆきこ、隣のしゅうじくん、お父さんと続くのですが、ひろしは、いい加減に答えながら穴を掘り続けます。「もっとほるんだ、もっとふかく」。
その時、穴から一匹のいもむしが這い出してきて、ひろしは初めてその手を止めます。そして穴の中に座り込みます。穴の中は静かでいい匂いがしていました。
「これはぼくのあなだ」ひろしはそう思って、穴の中に座り続けます。
またお母さんが来て、妹のゆきこが来て、隣のしゅうじくんが来て、お父さんが来て、それぞれに声をかけます。ひろしは、またいい加減に返事をして、穴の中に座り続けます。
そして、ふっと見上げた高い空に、一匹のちょうちょが横切っていくのが目に入ります。ひろしは立ち上がり、弾みをつけてその穴から出ると「これはぼくのあなだ」と言って、ゆっくりと穴を埋め始めました。
すべての人との関係を無視して穴を掘り続けるひろし、けれど誰もひろしのことを否定することなく、ある意味見守っているようにも感じられます。穴を掘り始 めることも、掘り続けることも、その中にとどまることも、そして「これはぼくのあなだ」と肯定しつつも埋めるということも、ひろしは自分自身で決めていき ます。
谷川俊太郎さんが、どういった思いでこのお話を書かれたのかは、わかりません。でも、不登校を体験している子どもの気持ちやその支援の在り方にも通じるように感じられませんか?
サバイバーズ・ミッション
自分が誰からも否定されることのない安心感、それに伴う自己肯定感、そういったものを実感しながら、人は再出発していくことが出来ます。
いじめや不登校、そしてそこから這い上がる過程は、誰しもが経験することではありません。
サバイバーの使命とは、その貴重な体験を、後世に伝えていくことにあるのではないでしょうか。
語ることが誰かの力になり、笑顔に繋がる。そのことがまたサバイバー自身の前に進む力になっていき、生きる力に繋がっていくのです。
このコラムの著者
鹿野武史
教育業界に在籍現在21年目。中学・受験・大学受験や子どもの悩み相談など幅広くこなす。私生活においては高校生から幼稚園児までの3児の父として子育て中。ブログや業界誌で地域と子どもに向けて情報を発信する。また、学校のPTA役員もこなす。
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