勉強する楽しみをもっと前に知りたかった 私が今体罰について思うこと
取材
2018年11月13日
近ごろ、パワハラや体罰のニュースが絶えません。昔は当たり前に体罰が行われていたといいますが、体罰が傷となって、大人になってからも苦しい気持ちを抱える人もいます。
めぐさんは、中学生のころに体罰を受け、不登校になりました。
体罰や不登校からどんな傷を負ってしまったのでしょうか。そして、今どんな気持ちで体罰というものを捉えているのでしょうか。
前編 『なんで殴るんですか』 私は体罰を受け不登校になりました も御覧ください。
自分でも気づないうちに壁を作ってしまう
中学1年生からほとんど行かなかった中学校を卒業しためぐさんは、高校には行かずに働くことを選びました。
「私はあまり覚えていないんですけど。母によると、当時の校長先生からは『推薦で行きたい高校に行かせてやる』みたいな話があったけれど、私が、『勉強もしていないし、このまま高校に行ってもどうせついていけないから行かない』って言ったみたいですね」
めぐさんは、全日制高校へ行く以外の選択肢として、サポート校や専門学校などを探したそうです。けれども、公立ではないそれらの機関の学費は高額で、母子家庭だったこともあり、お母さんに負担をかけたくないという思いから、アルバイトとして働くことを選択したのです。
しかし、働き始めても体罰による人間関係への恐怖は消えませんでした。
「バイトには普通に行ってました。でも、今もそうなんですけど目上の人とうまくいかないんですよ。やっぱり目上の人が怖いんでしょうね。どっかでトラウマが残っていて、甘えられない。可愛がられないんですよ」
同僚とは仲良くできるのに、なぜか目上の人とはうまくいかない。それが原因で、アルバイトや仕事をやめることも多かったそうです。
そんなことが続く中で、めぐさんは自分が目上の人に対して壁を作っていることに気づきます。
「私が壁を作ってるから、向こうも同じように壁を作ってしまうんだと思うんですよね。気持ちが伝わっちゃう」
仕事を変える度に起こる問題 その先にたどり着いた場所
「仕事を変えようにも、面接で、『今どき中卒なの?』みたいに言われることがあるんですよ。そのうち履歴書を書くのも嫌になって」
そう話すめぐさんが、18歳から28歳まで10年間続けた仕事があります。それが、キャバクラでした。
年配の男性と関わることが主な仕事であるキャバクラで、目上の人とぶつかってばかりの彼女がなぜ10年も続くんだと思うかもしれませんが、ここでの仕事は居心地が良かったと、めぐさんは語ります。
「初めて大人に可愛がられたんですよね。冗談を言い合ったり、ご飯連れて行ってもらったり、時にはちょっと怒られたりとか。先生とかより、お客さんのほうがよっぽど愛情を持って接してくれていると感じました。なので全然楽しかったですね。けして苦ではなかったです」
そうして10年続けた夜の仕事をやめ、昼間の仕事をするために派遣会社に登録しました。大手企業に派遣されて行くと、そこで働く人たちは大卒が当たり前。どこの大学出身かなどの話題で盛り上がっている様子を目の当たりにしました。
「私はずっと何かしらの差別を受けているような気がしているんです。学歴差別だったり、女性差別だったり、年齢差別だったり。独身差別もありますよね。自分の責任もあるとはいえ、なかなか生きづらい社会ですよね」
だからこそめぐさんは、『学校にはできるだけ行っていたほうが、苦労は少ない』と考えるようになったそうです。
「不登校だったけれど、今それを逆にビジネスとして『学校行かなくても社長になれました』っていう人もいますよね。そういう人は素晴らしいと思うんです。でもそういうのって、本人の努力とか才能以外に、運も大きく作用してくると思うんです。私は学校に行かないことで余計に傷ついたことが多かったから…。就職の面接で、高校に行かなかった理由とか、いちいちみんな考えないわけですからね」
そして、今までの経験から痛みを知っているからこそできることをしたい、と考えるようになっためぐさんは、精神保健福祉士を目指して大学に通い始めました。
昔は勉強がすごく嫌いだった。でも今はすごく楽しいんです。
高校を卒業していないめぐさん。大学にある「特修生」というしくみを利用して通信制の大学に通いはじめました。実に20年以上ぶりに勉強というものを始めることに不安がありましたが、実際は勉強が楽しくて自分でも驚いていると言います。
「通信の大学の勉強って基本自分でテキストを読んで、課題があってそれに沿ってレポートを書くんですけど、そのレポートに対して先生が成績をつけて返してくれるんです。レポートなんて書いたことがないので、1番最初に出したレポートなんて、たぶん小学生の作文みたいだったと思うんですけど、それが1番いい成績のA判定で返ってきたんです。
先生からも、これからいろいろ大変だと思いますけど楽しんでやっていきましょう、みたいなコメントがあったんです。それがすごく嬉しくて。中学のときにこういう先生がいたら、人生変わってただろうなって思いましたね」
とても嬉しそうな表情で、こう語ってくれためぐさん。
そんな彼女の話を聞くと、辛いことがあったけれど、今は精神保健福祉士という目標に向かって頑張っていて、全てを乗り越えているかのように感じられるかもしれません。
しかしめぐさんは、自分の人生が体罰により変わってしまったという思いと、今も戦っていると言います。
「今勉強が楽しいからこそ、あのときに大きく人生が変わってしまったというか、レールから外れてしまったなって思うんですよね。
それに、今でも殴られた瞬間や、職員室で先生方から怒鳴られた空気の冷たさ。そういうのを鮮明に覚えているんですよ。昔は体罰が当たり前だったとか言いますけど、私は経験者として、やっぱり体罰からは何もいいものは生まれないんじゃないかなって思います」
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体罰によって、不登校になっためぐさん。
彼女が不登校になったのは、自己責任でしょうか。その後、高校に進学しなかったことは彼女が本当に心から選択したくて選んだ結果なのでしょうか。
めぐさんは、精神保健福祉士という目標にたどり着きました。それはとても喜ばしいことで、彼女の経験が必要とされる場面もきっとでてくるでしょう。だからといって、誰かが誰かに理不尽に暴力を受けること、それをきっかけに、苦しみを抱えてしまうこと。そのどちらも起きなくていいことだったはずです。
今は問題と認識されはじめていますが、改めて、体罰は理不尽な暴力だと多くの人が認識することから、傷つく子供を減らすことにつながって行くのではないでしょうか。
このコラムの著者
きたざわあいこ
株式会社クリスク ライター
北海道出身。中学時代に約2年間いじめにあい不登校になりかける。高校では放送部に熱中し、その後大学へと進学。上京してはじめて、学校以外の居場所や立場の違う人と接し、コミュニケーションについて考えるように。現在は自分の経験を活かし、子供の悩みや進学に関する悩みについての記事を執筆。
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