子どもたちが周囲に打ち明けにくい悩みを相談できる「匿名相談アプリ」を、長野県塩尻市の小中学校が新年度に導入する。児童や生徒の心と体の健康状態を把握する機能も兼ね備えたアプリで、子どもたちが一人で抱え込みがちな悩みを早い段階で受け止め、不登校やいじめ、虐待などの防止につなげる効果が期待されている。
同市教育委員会が2024年度に運用を始めるのは、大阪府枚方市教育委員会やNTTデータ関西(大阪市)などが制作したアプリ。市内の9小学校と5中学校の児童と生徒合わせて約5500人に対して市教委が貸し出しているタブレットにアプリを導入する。
アプリは、子どもたちの気分や体調をアンケートで「見える化」できる機能を備えている。児童や生徒は日々の健康状態を「いい」「あまりよくない」など5段階で入力し、気分や体調の変化に早い段階で気づくことができる。
また、アプリには子どもたちが「ともだち」「せいかつ」など4項目についての悩みをチャット形式で相談できる機能もある。受け付けた相談には、市教委の社会福祉士やカウンセラーら3人の職員が対応。子どもたちに助言するとともに、不登校やいじめ、自殺願望など、命にかかわる緊急性の高い相談や深刻度の高い相談は、例外的に学校とともに対応することも検討する。
市教委教育総務課によると、市内の9小学校で22年度に不登校となっている児童は61人。5中学校で不登校となっている生徒は133人。アプリの導入には、不登校の子どもたちが年々増えていることが背景にあるという。
チャット機能は匿名で、悩みを打ち明けやすい。何度もやりとりする中で信頼関係を築き、より適切な対応につなげられる可能性もあるという。小松義宏・学校支援係長は「低学年の子どもの中には自分が何に困っているのかに気づいていないケースもある。周囲に信頼できる大人がいれば、SOSが出しやすくなる」と話す。
昨年10月、市教委が市内3校の3学年で先行的にこのアプリを使ってみたところ、1カ月間で約300件の相談が寄せられた。24年度は1年間を通して全校に運用を拡大し、健康についての質問項目の見直しや、相談に対応する職員の増員の必要性などを見極めていく。
小松係長は「アプリの相談を通じて、いじめや自殺願望、家庭内での虐待など重大な案件も把握できると考えている。相談の傾向を把握することで、25年度以降は医師や教育支援NPO関係者らに対応を依頼することもあり得る」と話す。
市はアプリの導入費として24年度の一般会計当初予算に165万円を計上。国の委託事業のため、経費はすべて国庫負担となるという。(安田琢典・朝日新聞デジタル)